29 February 2024
起業初期やアーリーステージのスタートアップが資金調達する方法は複数ありますが、一般的な手段の一つが「エンジェル投資家」からの出資です。
今回の記事ではエンジェル投資家の概要や、出会い方、選び方、またエンジェル投資家から出資を受けるためのポイントを解説します。
この記事のサマリ
エンジェル投資家とは、まだ実績があまりない企業に出資する個人投資家のことです。起業したばかりの企業は実績や信用がないため、金融機関から融資を受けることが難しい傾向にあります。しかしエンジェル投資家は、企業の実績ではなく将来性や新規性、創業者の人間性などから出資するかどうかを判断します。
エンジェル投資家は早い段階で株式や新株の予約権などを取得し、EXIT(=IPOやM&A)の際に売買差益(=キャピタルゲイン)を得ることを目的としています。
売買差益による高いリターンが期待できますが、事業価値が明確化されていない創業したばかりのスタートアップへの投資判断は難しく、投資先企業の倒産といったリスクも伴うことになります。
なおエンジェル投資家の中には自分自身も起業した経験があり、純粋にこれから成長する企業を応援したい・社会に貢献したいという気持ちから出資を行う人も多く存在します。
スタートアップがエンジェル投資家から出資を受ける主なメリットとしては、次の3つが挙げられます。
以下ではそれぞれのメリットについて解説します。
積極的に経営に関わるエンジェル投資家であれば、企業成長に役立つ有益なアドバイスが得られる可能性があります。エンジェル投資家の中には自身にも起業経験があり、企業を大きく成長させてきたという人もいるため、実践的なアドバイスや具体的なサポートを得られることもあります。
起業する際には、経営知識や事業に必要な専門知識の習得も大きな課題となります。さまざまな事業経験のあるエンジェル投資家からの経営アドバイスは、起業家にとって大きな価値があります。
エンジェル投資家の中には、人脈や取引先などを紹介し、出資先のスタートアップがより短期間で成長できるように手を差し伸べてくれる人もいます。
資金だけでなく多角的な支援をしてくれるエンジェル投資家も多く存在します。投資家によって出資先の企業との関わり方・サポート方法は異なるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
エンジェル投資家は、**融資(デット)ではなく出資(エクイティ)**という形でスタートアップに資金を提供します。そのため、企業側には返済の義務がありません。毎月の返済を前提とした資金繰りに追われることなく、事業成長を最優先に行動できることはスタートアップにとって大きなメリットと言えるでしょう。
デットファイナンス・エクイティファイナンスに関する詳細は以下の記事も参考にしてください。
デットファイナンスの概要やスタートアップ向けの調達手法の解説
エクイティファイナンスの概要やスタートアップ向けの調達手法の解説
スタートアップがエンジェル投資家から出資を受ける際に考えられるデメリットとしては、おもに次の3つが挙げられます。
それぞれのデメリットについて解説します。
エンジェル投資家は自己資金で出資するため、金融機関やVCなどと比べると出資金額が低くなる傾向があります。出資額の相場は、数百万円〜数千万円程度となります。多額の資金を調達したい場合は、エンジェル投資家を複数人見つける必要があります。
それでも目標額に達しないときは、VCや各種補助金、金融機関など他の方法も検討すると良いでしょう。
エンジェル投資家の中には、積極的な提案を行ったり、経営陣の意見をあまり尊重せずに自分自身のアイデアを強く主張したりする人もいます。仮に起業家自身が当初「たくさんアドバイスをしてほしい」と思っていたとしても、場合によってはアドバイスの域を超えて、思うような経営が実現できなくなるケースもありえます。
例えば経営陣が資金調達のために新株発行を検討する際に、エンジェル投資家が希薄化を懸念してそれに反対してくる、といったケースなどが考えられます。
エンジェル投資家と起業家の距離感や相性は非常に重要です。出資を受けた後に後悔することがないよう、そのエンジェル投資家がどのような人物なのか、リファレンスチェック(詳細は後述)を行うなどして慎重に見極めるべきでしょう。
エンジェル投資家は、出資する代わりに企業の株式を取得します。株主総会では株主比率が議決に関係するため、エンジェル投資家の持ち株比率が多くなりすぎると経営権まで握られるリスクがあります。
経営権を握られると、エンジェル投資家と経営者で意見が異なったときに、経営者が考えている方針で会社を運営できなくなる可能性があるため注意が必要です。
原則、持ち株比率についての判断は、自社の資本政策に基づいて行うことが望ましいですが、エンジェル投資家の持ち株比率が妥当かどうかの判断が難しい場合は、他の起業家や専門家に相談すると良いでしょう。もし出資してもらいたい金額と発行する株式数が合わない場合は、他のエンジェル投資家を探すことも検討すべきでしょう。
資本政策については、以下の記事も参考にしてください。
資本政策の概要 〜資金調達のために設計すべきポイントを解説〜
エンジェル投資家による出資とベンチャーキャピタル(VC)による出資はいずれもエクイティ・ファイナンスという面では共通していますが、いくつか異なる点が存在します。この章ではそれらの相違点を解説します。
なお、ベンチャーキャピタル(VC)の詳細については以下の記事も参考にしてください。
ベンチャーキャピタル(VC)の概要とVCからの資金調達のポイント解説
VCは投資を行う「会社」ですが、**エンジェル投資家は「個人」**であることが特徴です。エンジェル投資家の多くは、自身の事業の成功で得た資産を活用して期待値の高いスタートアップに投資を行います。
VCは自社を含む複数のVCと同時に出資することがあり、多額の出資を条件にリードの立場を取ることがありますが、前述のとおりエンジェル投資家が出資する金額はVCと比較すると少額になる傾向があります。そのため、基本的にはリードではなく、**フォローでの投資にとどまる**ことが多くなります。
*リード…資金調達ラウンドにおいて投資条件(=企業価値や総調達金額、各種投資家の権利・義務を定めた条件など)の交渉を担う投資家(VC)。
*フォロー…ラウンドにおける補助的な投資をしてくれる投資家。リードが決定した投資条件に従って出資する。
リードVCの多くがハンズオンの支援スタイルを取るのに対し、エンジェル投資家は基本的にはハンズオフの立場を取ることが一般的です。
*ハンズオン…出資先企業の経営に深く関わりつつ、必要なサポートを随時行う支援スタイル。
*ハンズオフ…資金のみ提供し、経営は基本的に企業に任せる支援スタイル。
VCはラウンドを問わず全般的に(あるいはそのVCが特化しているラウンドの企業に対して)投資を行います。
一方エンジェル投資家が出資を行うのは、多くは起業初期やアーリーステージまでのスタートアップになります。
創業期であれば少額の出資でも一定の株式を取得できることが多いため、個人資産からの(VCと比較すると少額な)出資となるエンジェル投資の特性上、アーリーステージまでが対象になることが一般的です。
エンジェル投資家は個人なので、自分の判断だけで出資するかどうか決めることができます。そのため投資会社(団体)であるVCと比べると、投資決定に至るまでのプロセスもかなり少なくなります。
基本的には、
の2ステップのみで投資を決めるのが一般的です。
スピード感ある資金調達ができる点は、エンジェル投資家から投資を受けるメリットのひとつでもあります。
エンジェル投資家から出資を受けたいときは、起業家自身が積極的に探す必要があります。この章ではエンジェル投資家と出会うための一般的な手段について解説します。
起業家自身が前職、またはこれまでのキャリアの中でスタートアップで働いていた経験がある場合、そこでの繋がりを活かせることもあります。その企業がすでにEXIT済みであったり、EXIT間近のレイターステージに達している場合、ファウンダーや経営者に出資してもらえる可能性があります。
良好な関係性を保っているのであれば、一度過去の繋がりを辿って相談してみる価値はあるでしょう。
自分自身に繋がりがなくとも、スタートアップで働いた経験のある知人がいれば、その人がエンジェル投資家との繋がりを持っていることがあります。起業家・経営者仲間の中には、エンジェル投資家から資金提供を受けたという方もいるかもしれません。
エンジェル投資家は投資家としての活動以外にも積極的にビジネスを行っていることが多いため、基本的には多忙です。しかし、実際に資金提供をしたことがある経営者や、直接の知り合いから紹介された場合には会う時間を作ってくれる可能性があるでしょう。
起業家が集まる交流会やイベントには、エンジェル投資家が参加していることがあります。積極的に投資を行っているエンジェル投資家であれば、成長しそうな企業を見つけるために、そのような場所で積極的に活動している可能性があります。
その場でエンジェル投資家に出会えなくても、エンジェル投資家を紹介してくれる経営者と出会えるかもしれません。
もし周辺にエンジェル投資家や、エンジェル投資家に繋がりそうな知人がいないという場合には、そういったイベントに積極的に参加してみるのも一つの手段です。イベントの情報はSNSでアナウンスされていることも多いので、日頃から意識して情報収集しておくと良いでしょう。
また、自社のビジネスのアイデアをプレゼンする「ピッチコンテスト」が開催されていることもあります。こうしたコンテストでは、エンジェル投資家が審査員を務めているケースも多く、知り合うチャンスになるかもしれません。エンジェル投資家と知り合うだけでなく、同時にビジネスアイデアのプレゼンも聞いてもらえる貴重な機会になるので、積極的に活用していきましょう。
場合によってはVC(ないしベンチャーキャピタリスト)からエンジェル投資家を紹介してもらえるケースもあります。信頼できる人や機関を介しての紹介であれば、起業家・投資家の両者とも少なからず安心を得ることができるでしょう。
SNS経由でエンジェル投資家に直接コンタクトをとってみるのもひとつの手段です。ただし、無名の起業家がSNSで突然話しかけても相手にしてもらえないかもしれません。エンジェル投資家の目を引くためにも、自己紹介含め丁寧なメッセージを送ることを心がけましょう。
起業家とエンジェル投資家を繋ぐマッチングプラットフォームも複数存在します。比較的有名なマッチングサイトとしてはAngel Port、Founderなどが挙げられます。あらかじめ希望条件でソートした上でエンジェル投資家を選んで資金提供を申し込むことができるのも、マッチングサイトの利点です。
しかし、マッチングプラットフォームによっては、エンジェル投資家になるために厳格な審査基準を設けていないなど、その身元の保証をしていないものもあるため、信用できるマッチングサイトおよび相手なのかは慎重に見極めるようにしましょう。自分自身で調査するほか、信頼できる起業家や投資家、反社会的勢力の情報に詳しい調査会社などにヒアリングをすることも有効な手段です。
もし仮に反社会的勢力から出資を受ける等の形で関係を持ってしまうと、株主や投資家の信頼を著しく損なう、従業員が去ってしまう、EXITができなくなるなど、起業家がそれまでに築き上げてきたもの、場合によっては会社そのものも失うことも考えられます。
以下では、エンジェル投資家から出資を受けるために押さえておきたいポイントについて解説します。
エンジェル投資家と一口に言っても、企業との関わり方や得意とする支援のスタイルは人によって千差万別です。自社が求めているものが少額の投資なのか、経験やノウハウなのか、人脈や新規の顧客なのかなど、条件によってマッチするエンジェル投資家は異なってくるはずです。
資金以外に、エンジェル投資家自身の経験やその人が持つ人脈などを求める場合、定性的な要素ではあるものの、以下のようなポイントは重点的に検討した方が良いでしょう。
エンジェル投資家はVCと違って、スタートアップへの投資を個人で検討し、判断します。検討日数も短いため、大量の資料はむしろ敬遠される可能性もあります。要点を押さえた、簡潔かつ明快なピッチ資料を準備できると良いでしょう。また面談の際に事業の魅力を伝えきるプレゼンテーション力を磨いておくことも重要です。
最後に、エンジェル投資家から出資を受ける際に留意するべきポイントを解説します。
エンジェル投資はスタートアップの初期、事業価値が明確化される前に行われることが多く、それはすなわちハイリターンが期待できるものの「ハイリスクな投資」でもあるということです。エンジェル投資家は出資した金額を全損するリスクもあるので、それを理解した上で出資してくれる人を選ぶ必要があります。
企業の業績悪化など、ネガティブな局面ですぐに出資を引き上げようとするような投資家は避けておいた方が良いでしょう。
事前の条件交渉はもちろんのこと、やはり起業家とエンジェル投資家双方が「人として信頼できるか」も前述のとおり重要なポイントになってきます。
スタートアップの成長過程において、様々な経営判断が必要な局面があります。株主総会での議決権行使など、経営上で株主の協力が必要な場面も多いため、レスポンスが速い人だと経営がスピーディに進みます。スタートアップにとって「スピード」は重要な指標であり、事業成功の鍵でもあります。すばやい経営判断に寄与してくれる投資家を選ぶに越したことはないでしょう。
出資を依頼しようとしているエンジェル投資家が信用できる人物か、自分と相性が良さそうかなどのポイントは事前に入念にチェックする必要があります。可能であれば共通の知人や、エンジェル投資家が以前働いていた職場の人などにヒアリング(=リファレンスチェック)ができると良いでしょう。
またそのエンジェル投資家と知り合いの投資家や、エンジェル投資家から出資を受けている起業家仲間に当人の評判や「人となり」を聞いてみるのも、本当にそのエンジェル投資家からの出資を受けるべきか判断する上で助けになるでしょう。
エンジェル投資家と投資・株式等に関する契約を結ぶ時には、Webで手に入るテンプレートなどを参考に契約書を作っても問題はありませんが、その際にも弁護士のレビューを必ず受けるようにしましょう。自分なりに調べて理解したつもりでも、エンジェル投資家を個人として信用していても、やはり専門家のレビューを得ることは重要です。不利な条件で出資が決定してしまうと後からは修正できないため、レビュー無しでの契約締結はリスクが高いことを覚えておきましょう。
前述のとおり、仮に反社・反市勢力に該当する人物から出資を受けた場合、EXITはおろか、直近の資金調達にも悪影響を及ぼす可能性が高く、企業および起業家にとって大きな損失となります。起業したばかりのスタートアップにとって、調査会社に依頼するほどの費用を捻出するのは困難なことも多いでしょう。そのような場合にもやはりリファレンスチェックが有効です。複数の関係者にヒアリングを重ね、多角的な視点からのコメントを得ることは、相手の身元や信頼性を見極める上で役立つでしょう。
今回はエンジェル投資家の概要と、出会い方や選び方、出資を受ける際のポイントを解説しました。
創業期・アーリーステージのスタートアップはエンジェル投資家から出資を受けることで、負債を増やさずに成長していくことができます。しかし、エンジェル投資家から出資を受けることは容易ではなく、また、出資を受けられた場合も予想よりも金額が少ない可能性もあるでしょう。
資金調達の方法は、エンジェル投資家だけではありません。エンジェル投資を含むエクイティファイナンスの他にも、金融機関からの融資や助成金など幅広い方法が存在します。
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RBFについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
5分でわかる「レベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)」デットでもエクイティでもない新たな資金調達手段
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