スタートアップにおける資金調達ラウンドの解説

    25 January 2024

    スタートアップにおける資金調達ラウンドの解説

    スタートアップは事業の持続的な成長のため、事業段階に応じて資金調達を行います。スタートアップの事業段階は外部からわかりづらいため、「ラウンド」というフェーズ分けを用いてスタートアップと投資家の間で共通認識を持ちやすくしています。今回の記事ではラウンドの定義や種類・特徴、また次のラウンドに進むためのポイント(企業としてどのレベルに達している必要があるか)について解説します。

    なお「投資ラウンド」とは投資家目線の表現、「資金調達ラウンド」は資金調達を行うスタートアップ目線の表現であり意味に違いはありません。本記事では「資金調達ラウンド」に表記を統一します。

    本ブログのサマリ

    1.資金調達ラウンドとは

    ラウンドとステージの関係性

    ラウンドとはスタートアップ企業が成長していく過程を、エクイティによる資金調達の側面から段階ごとに分けたものを指しており、「エンジェルラウンド」「シードラウンド」「シリーズAラウンド」「シリーズBラウンド」「シリーズCラウンド」「シリーズDラウンド(以降)」の6つに大別されます。

    またラウンドの大きなくくりとして「ステージ」があり、こちらは「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」の4つに区分されています。一般的にステージが進むにつれEXIT(=IPOやM&A)が近づくと言えます。

    なおステージとラウンドの定義はあいまいな部分があり、全ての企業が各ラウンドに厳密に当てはまるわけではありません。大まかな目安として参考にしてください。

    エクイティファイナンスのステージ・ラウンドの関係性※

    ステージ名シードアーリーミドルレイター
    ラウンド名エンジェルシードプレシリーズAシリーズAシリーズBシリーズCシリーズD以降〜
    特徴起業アイデア検討段階PMF*1 実現前後UE*2 成立前後EXIT準備段階
    調達額の相場数百〜数千万円程度数千万~数億円程度数千万~数億円程度数億~十数億円程度十数億~数十億円程度十数億~数十億円程度数十億円 程度

    ※Yoii独自調査のもと作成

    *1 PMF…Product Market Fitの略。カスタマーの課題を満足させる製品を提供し、それが適切な市場に受け入れられている状態を指す。
    *2 UE…Unit Economicsの略。1顧客あたりの採算性、つまり「顧客獲得のために投入したコスト」と「獲得した顧客から得られる利益」のバランスを見る指標。

    「シリーズA」等のアルファベットは優先株式の種類を示したもの

    スタートアップにおいては資金調達をしやすくするために、配当などの分配で優先権のある「優先株式」が発行されるケースが多く見られます。優先株式はアルファベットのついた名称で発行されることが多く(1回目の調達では「A種優先株」、2回目の調達では「B種優先株」を発行する等)、ラウンドの名称が「シリーズA」と呼ばれるのは、優先株式のアルファベットが由来になっています。

    2.各資金調達ラウンドごとの特徴

    ここからは上述した6つのラウンドごとに、それぞれの特徴や一般的な調達にかかる期間・調達金額の相場について詳しく説明します。

    エンジェルラウンド

    エンジェルラウンドは、製品やサービスのアイデアのみがある状態、ビジネスを始める準備段階を指します。別名「プレシードラウンド」と呼ばれることもあります。まだ実績や人材も十分でなく、商品やサービスもない段階であることがほとんどなので、エンジェル投資家からの調達のほか、起業支援の補助金や助成金などの活用も視野に入れると良いでしょう。

    【エンジェルラウンドでの一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:数百万円~数千万円程度
    調達方法:エンジェル投資家・創業融資(日本政策金融公庫)・助成金・補助金・J-kiss* など
    
    *J-kiss…投資家から新株予約権として資金調達し、一定期間経過後に次回の資金調達が実行されることを行使条件として、次回ラウンドに一定の条件の下、株式に転換するスキーム
    

    シードラウンド

    シードラウンドは一般的にはビジネスモデルを定め、市場調査を行ってプロトタイプを制作し仮説検証を行っているようなフェーズを指します。この段階で想定される具体的に必要な資金としては、必要最低限の市場調査にかかる資金、プロトタイプの制作資金のほか、人件費・オフィス賃料などが挙げられます。

    シードラウンドの段階ではまだ製品も売上実績もないことがほとんどのため、出資を断られるケースも珍しくありません。もし出資してもらえたとしても、大きな金額は望みにくいでしょう。ひとつの手段で必要な額全てを調達するのではなく、創業融資などを含めた複数の調達先から少しずつ調達することが一般的です。

    エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(以下、VC)から出資を受ける場合、株主として経営に大きく関与される可能性もあるため、出資者を慎重に選び、良い関係を築いていくことも重要です。

    【シードラウンドでの一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:数千万円〜数億円
    
    調達方法: シードラウンド特化のVC・エンジェル投資家・創業融資(日本政策金融公庫)・助成金・補助金・J-kiss・株式型クラウドファンディングなど
    

    プレシリーズAラウンド

    「アーリーステージ」となるシリーズAラウンドは、前段階としてプレシリーズAラウンドを設定し、資金調達を行うケースもよく見られます。

    プレシリーズAラウンドとは、プロトタイプをユーザーに提供し、製品やサービスの改善を重ねながら市場で戦っていけそうか検証している段階です。サービスのコア機能・ターゲット顧客・提供価値が定まり切っておらず、売上が立っていたとしても不安定で費用が先に多く出ていく状態なので、企業にとっては正念場とも言えるでしょう。

    【プレシリーズAラウンドでの一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:数千万円〜数億円
    調達方法:VC・CVC・保証協会の保証付き融資・ファクタリング*1・RBF*2
    
    *1 ファクタリング…スタートアップ企業が保有している売掛金をファクタリング会社に買い取ってもらい現金化する資金調達手段。売掛金の入金期日よりも前に資金調達できる点がメリット
    *2 RBF…企業の 過去の財務データ・取引データなどから将来の売上・収益を予測し、 売上債権の一部を譲渡することで資金調達できる手段
    

    シリーズAラウンド

    プレシリーズAラウンドにて製品やサービスが市場で通用するか検証できた次の段階として、シリーズAラウンドへ進むことになります。

    シリーズAラウンドは、ユーザーや売上を増加・拡大していくフェーズです。マーケティングやブランディングによって企業や商品の認知度を高め、新規ユーザーの獲得を目指すとともに、PMFの実現も重要なマイルストーンとなります。自社の製品・サービスが求められる市場が明確であり、顧客に製品・サービスが売れている状態を創出し、維持していかなくてはなりません。

    シリーズAラウンドでの調達は、必要な金額もシード期より多額になるため、リード投資家の選定や優先株式の条件交渉などにより、調達にかかる期間はエンジェルラウンドやシードラウンドよりも長くなることが想定されます。

    まだ手元の資金が少ない中、特に製品のリリース後には想定外のコストが発生して資金繰りが急激に苦しくなる可能性も十分に有り得ます。シリーズAラウンドの資金調達は「早めに動き出す」ことを意識しましょう。

    【シリーズAラウンドでの一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:数億円〜十数億円
    調達方法:VC・CVC・保証協会の保証付き融資・ファクタリング・RBF
    

    シリーズBラウンド

    スタートアップ企業にとって「ミドルステージ」となるシリーズBラウンドでは、PMFが実現でき、UEが成立している(=事業拡大するほど利益が上がる状態になっている)必要があります

    事業や経営が軌道に乗り始め、更なる売上の拡大や新規顧客の獲得、また採用活動や商品の追加開発なども積極的に行っていく段階となるでしょう。

    シリーズAまでは事業を軌道に乗せる目的で資金調達を行うケースが多いのに対し、シリーズBでは企業規模の拡大や更なる製品・サービスの進化、ガバナンス・管理体制の構築を目的として資金調達を行うのが一般的です。EXITも具体的に見据えた資金調達を行う点に大きな特徴が見られます。

    調達額も大きくなるため、その金額に見合った的確で緻密な事業計画が求められます。また多くの場合シリーズBでは、創業者や投資家が投資資金の回収を行うEXITの時期が近づくことから、黒字化や数期以内の黒字化の蓋然性が求められるようになります。

    【シリーズBラウンドでの一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:数億円〜数十億円
    調達方法:VC・CVC・保証協会の保証付き融資・金融機関からの融資・事業会社との資本業務提携・ファクタリング・RBF・ベンチャーデット*
    
    *ベンチャーデット…転換社債や新株予約権付融資等エクイティ(資本)とデット(負債)の双方の性質を備えた金融商品の総称
    

    シリーズCラウンド

    シリーズBまでで事業の拡大に成功し、IPOやM&AでのEXITを具体的に意識する段階です。「レイターステージ」に到達したこの段階では、メイン事業の予実実績のコントロール、IPO等に必要十分な内部統制や組織のガバナンスなど一段上の管理体制構築が求められます。

    この時点でEXITを選択する企業も一定数おり、経営者はIPOするのか事業売却するのか、企業の今後について方向性を決める時期でもあります。

    【シリーズCラウンドでの一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:十数億円〜数十億円
    調達方法:VC・CVC・ファクタリング・シンジケートローン*・金融機関からの融資・事業会社との資本業務提携・ベンチャーデット・IPO(株式公開)
    
    *シンジケートローン…資金調達ニーズに対し、複数の金融機関が協調して同一の契約で実施する融資
    

    シリーズDラウンド以降

    シリーズCでEXITを目指すスタートアップも多く見られるものの、IPOやM&AによるEXITに向けて十分な利益や売上を出すための資金が求められることから、シリーズD以降のラウンドでさらなる資金調達を行う企業も少なくありません。

    安定した組織体制と経営を基盤として、メインに手掛ける事業の規模を拡大しており、関連事業の開発に着手しているケースも見られます。これに伴い、組織管理機能の強化やEXITに向けた上場準備チームの組織などを行うためにスタッフを増員することもあるでしょう。

    スタートアップがシリーズDまで進んだ場合はIPOを目指すケースが多いですが、近年ではM&Aを行う企業も増えています。また大手企業に株式の一部を売却し、売却先の事業と提携してシナジー効果を狙うケースなども見られ、シリーズD以降の出口戦略と着地点は様々です。

    【シリーズDラウンド以降での一般的な調達額・調達期間・調達方法】
    
    調達額:数十億円〜
    調達方法:VC・CVC・ファクタリング・シンジケートローン・金融機関からの融資・事業会社との資本業務提携・ベンチャーデット・IPO(株式公開)
    

     

     今回の記事では資金調達ラウンドの種類とそれぞれの特徴について解説しました。

    資金調達ラウンドを理解することで自社の立ち位置が俯瞰できるようになり、EXITに向けてどれだけ進んでいるのか、また取引先や同じ業界の企業にとって今回の資金調達は何を意味するのかが見えてくるでしょう。

    必要な運転資金を前もって確保し、事業を伸ばすことができれば企業としてのバリュエーションが高くなり、次回のエクイティ調達時により大きな資金調達が期待できます。

    ラウンドをより効率的に進めていくための資金調達手段のひとつとして、レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)も注目されています。

    RBFについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

    5分でわかる「レベニュー・ベースド・ファイナンス(RBF)」デットでもエクイティでもない新たな資金調達手段

     

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