
2022年10月28日
完全栄養食「BASE FOOD」を提供するベースフードが、グロース市場への新規上場を承認されました。上場日は11月15日(火)を予定しており、オファリング規模は60.8億円、想定時価総額は483.3億円(10月24日時点)となっています。
同社は「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに」というミッションを掲げ、D2Cスタートアップの代表格として注目されてきました。今回は「新規上場申請のための有価証券報告書」をもとに、同社の沿革や資金調達、事業内容や重視するメトリクスについて解説します。
ベースフードは2016年に創業されたスタートアップ。DeNAで自動運転事業などに携わっていた橋本舜氏によって設立されました。
同氏はDeNAで働いていた当時、コンビニやファストフード中心の生活となっており、栄養バランスに配慮できなくなっていたといいます。
忙しい毎日でもおいしくて体にいいものを食べられる。そのような「食のトレードオフをなくす」という想いから、手軽に食べられる完全栄養食を開発することとなります。
しかし、同氏に食品製造に関する知見はなかったといいます。そこで食品衛生・加工の基本を理解するため、化学の知識から学び直したそうです。配合の最適化を考え続け、当時は1年間で100回の試作品を作ったといいます。

かくして16年10月、完全栄養パスタ「BASE PASTA」のクラウドファンディングを開始。17年2月には、アマゾンで販売を開始します。
19年には今や同社の代表商品となった完全栄養パン「BASE BREAD」、21年には完全栄養クッキー「BASE Cookies」を発売。徐々にラインナップを広げ、BASE FOODシリーズの販売数は累計5,000万袋(22年6月時点)となりました。

BASE FOODシリーズは、低脂質、低糖質、低塩分で、たんぱく質や食物繊維、ビタミンやミネラルなど、1日に必要な約30種類の栄養素が含まれています。そのため、1日に必要な栄養素の3分の1を1食で摂れる「完全栄養食」となっています。
商品は3つのチャネルを通じて、消費者へ販売しています。
ECサイトを通じて、消費者へ直接販売しています。同社EC売上高の内、69.2%(2022年2月期)は定期購入(サブスクリプション)によるものだといいます。
言うまでもなく、サブスクリプション形式を採用することで、生産や売上の安定性を確保できます。特に売上の安定性は事業の成長性に関わってくる部分であり、資金調達の際に投資家が重視するポイントでもあります。
サブスクリプションは顧客にとっても大きなメリットがあります。ベースフードの場合、定期的に商品が届くため、栄養バランスの良い食事を継続に摂れる、何を食べるか悩む時間を省ける、注文の手間を削減できるといった恩恵を受けられます。また、コンビニなどよりも安価に買えるというメリットもあります。
消費者と直接的なつながりを持つ、自社ブランドを育成するという点で、D2C企業は自社ECに最も注力すべきと言えるでしょう。
アマゾンや楽天など、他社ECサイトで商品を販売しています。アマゾンのような巨大プラットフォームで販売することで、商品の認知獲得および商品体験に繋がります。22年5月には、香港のECプラットフォーム「HKTV Mall」にて販売開始しています。
22年2月期の売上高はEC全体(自社+他社)で87.6%を占めており、オンラインチャネルが中心になっていることがわかります。
卸売業者を通じて、コンビニやドラッグストア、スポーツジムなどで販売しています。ファミリーマートなどで見かけたことがある方も多いでしょう。
小売店で1袋から購入できるため、まずは試してみたいという消費者へリーチすることが可能です。また、オンラインでリーチできなかった消費者に対して、オフラインで認知獲得および商品体験してもらうことができるのも卸売販売のメリットです。
BASE FOODシリーズの販売店舗数は17,878店舗(22年8月末時点)にのぼり、今後は営業体制の強化を通じて取り扱い店舗の拡大を図るといいます。
D2C企業はオンラインだけでなくオフラインチャネルへ販路を拡大することで、ターゲットを広げることができることが、同社の事例からわかりますね。

©︎ベースフード
ベースフードは、サブスクリプション会員向けにオンラインコミュニティ「BASE FOOD Lab」を運営。会員同士がレシピの共有をしたり、商品開発・改善に関する投稿ができるなど、顧客のエンゲージメントを高める場を設けています。22年8月時点で同コミュニティのユーザー数は、2.5万人以上となっています。
顧客のフィードバックをリアルタイムに受け取り、商品開発やサービス改善に役立てるためにコミュニティ運営することは、サブスクリプションの継続率を高める上で重要な施策となるでしょう。

ベースフードの売上高(22年2月期)は、前年比260%増(!)の55.4億円。海外スタートアップ並みのスピードで成長しています。一方、プロモーションをはじめとする販促費がかさみ、営業損益は-4.5億円となっています。
同社の売上総利益率(同期)は59%となっており、国内の主要パンメーカー「山崎製パン(34.9%:21年12月期)」や「第一屋製パン(26.2%:21年12月期)」よりも高い水準に。消費者との直接的なつながりを持つことで中間マージンを削減したり、ブランド育成により高付加価値を提供できるD2Cビジネスの強みが現れています。
同社は重要なメトリクスとして、顧客獲得効率を測る指標「CPA」、限界利益率を高める指標「LTV」を開示。22年8月時点でCPAは10,253円、LTVは20,012円となっており、CPA<LTVの構図となっています。

しかし、BtoB SaaSではLTV/CPAは3倍以上が健全と言われており、マルチプルの付き方に影響を与えているかもしれません。また、CPAおよびLTVの推移を見ると、LTVは横ばいになっている一方、CPAは上昇傾向にあります。今後はLTVを高めるか、CPAを下げることが求められるでしょう。
自社ECにおける月間購入者数は堅調に推移。22年8月末時点で13.8万人の会員を抱えています。顧客継続率(月次)は93.2%、つまり解約率(継続率の逆数)は6.8%となっています。解約率はBtoB SaaS(2-3%)よりも高い水準にあり、LTV/CPAと同様、マルチプルに影響を与えているかもしれません。

ベースフードはこれまで複数回の資金調達を実施しています。17年10月、シードラウンドにてグローバル・ブレインから1億円を調達。19年5月にはシリーズAラウンドにて約4億円を調達。楽天、XTech Venturesが新たな株主として加わりました。
そして22年2月、シリーズEラウンドにてTHE FUND(シニフィアンおよびみずほキャピタルのファンド)から10億円を調達。累計調達額(デット除く)は19.8億円となりました。
同ラウンドによりベースフードの推定評価額は503.3億円に。これは前回ラウンド(シリーズD)の15倍(!)にあたります。22年2月期の売上高は55.4億円だったため、これをもとにバリュエーションしたとすると、PSRは9倍だったことになります。
シリーズEラウンドではデットファイナンスも実施。三菱UFJ銀行、商工組合中央金庫、りそな銀行、三井住友銀行から10億円の借入を行いました。調達資金は、既存商品のアップデートならびに新商品の開発、人材採用の強化に充てるとのことです。
現時点の主要株主は、橋本氏(34.3%)、グローバル・ブレイン(23.3%)、Rakuten Capital(8.1%)、XTech Ventures(4.1%)となっています。
ベースフードは市場規模を定める上で、「無糖茶飲料市場」を例に挙げています。同市場において「特定保健用食品」および「機能性表示食品」の茶系飲料が占める割合は約13%。同社が対象とする市場においても同じ割合のニーズがあると考えているとのこと。
そのため、同社はコアターゲットとなる市場規模を約4,900億円(麺・パスタ、パン、スナック類の国内市場規模である約3兆7,600億円の13%)と捉えています。健康志向が高まる中、今後も同社の成長に目が離せません。
※本ブログは有価証券やその他金融商品の売買や申込の勧誘を目的としたものではありません。
※ロゴや商品画像の著作権はベースフード社に帰属します。
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