22 December 2023
近年、スタートアップにおける資金調達手段の多様化が進んでおり、従来主流である株式によるエクイティ調達と銀行借入などのデット調達に加え、その両者の性格を持つ新しい資金調達手段であるベンチャーデットの活用もグローバルで拡大しています。
特に、スタートアップ大国である米国ではベンチャーデットの活用が非常に盛んで、米国市場だけで世界全体の約50%を占めると言われています。
本記事では、そんな米国のベンチャーデット市場の概要やトレンドを読み解くことで、今後の日本におけるベンチャーデット市場がどうなるか、推察を交えて紐解いていきます。
本記事のサマリ
ベンチャーデットとは、スタートアップ向けのファイナンスのうち、エクイティ(資本)とデット(負債)の両方の性質をもった資金調達手段の総称で、新株予約権付社債・融資や転換社債などが含まれます。広義では、エクイティの性質を保たないスタートアップ向けの融資や私募債発行なども含まれることがあります。本記事ではエクイティの性質を含むものを前提として記載しています。
資金調達をする企業にとっては、エクイティファイナンスと比較すると株式の希薄化をできるだけ抑えつつ成長資金を確保できるメリットがあります。
米国においては、主に次の資金調達ラウンドまでのランウェイを延ばすために活用され、融資額は通常、直近の株式によるラウンドでの調達額の20〜35%に設定されます。
まずは米国におけるベンチャーデット市場の概要について解説していきます。
ベンチャーデット市場の動向
近年、米国のスタートアップにおけるベンチャーデットの活用が急拡大しており、2017年から2022年の間に米国のベンチャーデット市場はVC市場の約10%から14%にまで拡大しています。
米調査会社PitchBookの調べによると、2019から2022年の4年間は約300億ドル超の水準で推移しています。
しかし、シリコンバレーバンク(以下SVB)の破綻や金利上昇などの外部環境の変化を受けて、金融機関の融資基準が厳格化しており、先の見通しの付きづらいスタートアップへのベンチャーデットが難しくなっている兆候が強まっています。
そのため、2023年にはベンチャーデット額の総額が約120億ドルにまで急落すると見込まれております。(※)2024年は、部分的な回復が見込まれるものの、約140億〜160億ドル程度に留まると予想されています。
出典:Deloitte Insights「Back from the debt: Venture debt funding could grow again after a sudden decline」URL
ベンチャーデットの件数で見ても、2023年上半期は前年比で特にアーリーフェーズのスタートアップの融資件数が大幅に減少しています。
また、全ステージで見ても2023年上半期におけるベンチャーデットの融資件数・融資額はおおよそ半分以下に留まります。
出典:PitchBook「Venture debt deals decline 38%, led by SVB's core market」URL
資金提供プレイヤーの変化
昨今のエクイティ調達環境の悪化や長期化が、ベンチャーデット市場の拡大に大きく寄与してきました。
一方で、SVBの破綻以降、金融機関におけるスタートアップ融資の審査基準が厳格化されていることに加え、専門家は更なる規制強化なども予想しており、短期的にベンチャーデット市場の冷え込みが継続する可能性があると考えています。
伝統的な金融機関がスタートアップ向けの融資に消極的な姿勢を示す中で、その穴埋めを他の投資ファンドや代替的な非銀行レンダーが支える動きが加速しており、今後、これらの新規プレイヤーによるスタートアップへの資金提供が、ベンチャーデット市場の回復を推進すると予想されます。
前項では、米国におけるベンチャーデット市場の動向について解説しました。
最も大きな変化として、SVBの破綻により、伝統的な金融機関がよりリスクを回避する姿勢を示しており、その穴埋めを他の投資ファンドや代替的な非銀行レンダーが担っている点が挙げられます。
特に、投資ファンドの提供するプライベートクレジットや他フィンテック企業による融資が広がりを見せています。
本章では、具体的な事例も交えながら、最新の動向をご紹介します。
投資ファンドなどの機関投資家が企業に直接融資する「プライベートクレジット」が現在急拡大しています。
米調査会社PitchBookによると、投資ファンドが運用するプライベートクレジットのファンドのうち、まだ投資に回していない待機資金である「ドライパウダー」も含めた資産規模が約1兆5,000億ドルにまで上るとされています。
米大手投資ファンドKKRのスコット・ナトール共同最高経営責任者(CEO)は、「過去12カ月間に投資家から調達した670億ドルのうち630億ドルは従来のプライベートエクイティ以外を投資対象にしている」と述べ、企業への融資が今後の柱になると説明しています。
また、近年大手の投資ファンドだけでなく、スタートアップ向けの融資に注力する投資ファンド(Hercules Capitalや Horizon Technology FinancelやRunway Growth Capitalなど)の台頭なども目にします。
出典:日経新聞「H1 2023Global Private Debt Report」URL
法人向けのクレジットカードや支払い管理ツールを提供する米国フィンテックのユニコーン企業であるBrexはSVBの破綻を受けて緊急融資枠を発表しました。
Brexは2021年8月にスタートアップ企業向けの新たな融資サービス「Brex Venture Debt」の提供を発表しており、事業拡大の支援を目的として、成長領域で継続的に収益を上げる顧客を対象に融資を行っています。
SVBの破綻直後には、給与支払いのための資金を引き出せなくなったスタートアップを支援するため、緊急融資枠を発表し、約10億ドル(約1,350億円)を超える支援を実施しています。
また、上記に加えて、ベンチャーデットに代わる新しいスタートアップ向けの資金調達手段(レベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)など)も拡大しており、SVBの破綻によって産まれたギャップの補填に寄与しています。
これまでに米国におけるベンチャーデット市場の動向や資金を提供するプレイヤーの変化について解説してきました。
日本の金融市場は、一般的に欧米のトレンドが数年遅れで再現されると言われており、これまで述べてきた動向から、日本におけるベンチャーデット市場の今後の展望について最後に述べたいと思います。
これまでの米国におけるベンチャーデット市場の遷移を鑑みて、今後2段階で日本のベンチャーデット市場が変化していくと予想されます。
第一段階:伝統的な金融機関を中心としたベンチャーデットの提供拡大に加え、スタートアップ向けのデットファイナンス手段の多様化が進み、ベンチャーデット市場が本格化
日本はいままさにこのフェーズにあると言えます。
昨今、大手銀行グループや地方銀行を中心にベンチャーデットの提供が拡大しており、特にあおぞら企業投資株式会社(2019年11月に国内初のベンチャーデットファンドを設立)や静岡銀行(2027年までに5年後に残高を最大1,000億円規模に拡大予定)などといった銀行名をよく耳にします。
また、スタートアップ向けにデットファイナンスを提供するプレイヤーも多く誕生しており、デットファイナンスの手段の多様化が急速に進んでおります。
(参考記事:ベンチャー・スタートアップ向けデットファイナンスマップ)
第二段階:失敗事例の増加による伝統的な金融機関のより戻しを経て、スタートアップの事業性を適切に評価できるプレイヤーが市場の成長を牽引
日本においては、金融庁がスタートアップ向けの融資や事業性に基づく融資の拡大の音頭を取っているため、米国よりも金融機関によるスタートアップ向けの融資・ベンチャーデットの提供は長く続くと想定されます。
一方、今後スタートアップ向けの融資・ベンチャーデットが拡大するにつれて、想定していた成長を描けない企業も増加することが予見されます。
伝統的な金融機関では、預かったお金を運用するという銀行の性質上、万が一の事案が発生(企業の破綻など)した場合の説明責任を果たすことをより厳格に求められます。
急激に変化・成長するスタートアップを柔軟に評価する機能の構築は難易度が高く、リスクを軽減するために審査基準は厳格化され、結果として伝統的な金融機関によるスタートアップ向けの融資・ベンチャーデットの提供は伸び悩む可能性があります。(実際にSVBの破綻以降、米国の銀行による融資厳格化が相次いでおります。)
そこで、スタートアップの事業を適正に評価しようとすると、売上の積み上がりや顧客獲得コストなどの財務諸表には現れない、事業そのものや売上の質・将来性を評価できるプレイヤーによる資金提供が拡大していくと想定され、既にそのようなプレイヤーの台頭も見られます。
弊社の提供するRBFもその一つであり、今後の大きな事業機会の到来を見据えた備えをしていくことが必要だと考えております。
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