29 November 2022
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ARR $0 to $1K
2020年9月、フィードバック管理ツール「Canny」がARR$1M(約1億円)を達成。かかった歳月はプロダクトローンチから3年半でした。
同社はブートストラップ(外部資本なし)でこの大きなマイルストーンを達成し、22年11月時点でも資金調達はしていません。また、アウトバウンドセールスは一切行わず、インバウンドだけで実現したことも特筆すべき点です。
©︎Canny
ARRが$1Mに到達した際、チームは7名でフルリモート体制。メンバーは4つの国、7つの都市で働いていました。
今回はARR$1Mをどのように達成したのか、そのマイルストーンから学べることを、同社ブログより紹介します。
Cannyは2017年に創業された米国発スタートアップ。Meta出身のエンジニア Andrew Rasmussen氏と、同じくMeta出身のデザイナー Sarah Hum氏が共同創業しました(二人は夫婦とのこと)。
©︎Canny
Cannyはプロダクトへのフィードバックを一箇所に収集。何が最も影響力があるか分析し、優先順位付けにおける意思決定をサポートします。また、機能のロードマップを作成したり、アップデートがあった場合はアナウンスすることも可能です。
ClickUpやCircleCI、Framerなどのスタートアップが主に利用しており、無料で使えるプランもあります。
フェーズ毎に体験したこと、学んだことをSarah氏がブログに書いています。
Sarah氏いわく、スタートアップが正しく成長するためには、この段階が最も重要だといいます。初期段階では、ターゲットや解決する課題を変更することは簡単です。しかし、プロダクトや顧客基盤が成熟すると、このような変更は容易ではありません。
この段階で以下3点を明確にしておくことが、その後のビジネスに大きな影響をもたらすと言います。
土台ができたら、いよいよプロダクトを作り、顧客獲得に向けて動き始めます。
Andrew氏はソフトウェア・エンジニア、Sarah氏はプロダクト・デザイナーなので、プロダクトを作ることはとても簡単だったといいます。しかし、営業経験がないため、顧客獲得が常に課題となっていました。同社記事では、最初の有料顧客を獲得した5つの方法について紹介されています。
1.プロダクトの無料版を提供
プロダクトの無料版をユーザーコミュニティへ配布。まずは、フィードバックを集めることに専念しました。
2.インフルエンサーの顧客を獲得
これはラッキーでしたが、個人的なネットワークからインフルエンサーの顧客を獲得できました。
Andrew氏は以前、React(Metaが開発する言語)チームで勤務していました。同チームはReactのフィードバックを追跡するべく、Cannyを利用し始めました。
3.ネットワーク効果を活用
Reactへフィードバックをしたユーザーの一部が、自社プロダクトのフィードバックを管理するためにCannyを使い始めました。Reactという影響力の大きなユーザーを獲得したことで、数多くの見込み客へリーチできたのです。
4.マネタイズできると判断し、有料化
フィードバック管理ツールにお金を支払ってもいいと感じるユーザーが存在することがわかりました。そのため、有料化して販売することにしました。
5.コミュニティをSaaSへ転換
もともと運営していたフィードバックコミュニティを、フィードバックSaaSへ転換することに成功しました。これにより、ビジネスとしてよりスケールするものとなりました。
Cannyは幸運にもインフルエンサーであるユーザーを獲得できました。しかし多くのSaaS企業では、バイラルチャネルやインフルエンサーを早期に獲得することは難しいでしょう。とはいえ、既存のソリューションよりも優れたものであれば、最初の顧客を見つけることができるはずです。
その頃、同社が他に注力していたこととしては、
などが挙げられます。もし最初の顧客獲得に課題を感じているのであれば、以下のいずれかに問題があるかもしれないと同社は言います。
2017年3月、Cannyが正式にリリース。ローンチ当初、フィードバックコミュニティから5名の有料会員が誕生しました。決して多くはありませんが、同社にとって大きな一歩となりました。
複数の有料顧客を獲得できれば、以下が検証できたことになると言います。
同社はその後2ヶ月間で、平均20ドル/月を支払う50名の顧客を獲得。同社のターゲットは、ソフトウェア企業で、特に小規模の企業でした。
©︎Product hunt
Product Huntは、ユーザーの大半が技術系の仕事をしているため、ローンチするのに最適な場所となりました。
ローンチから2ヶ月後、Cannyの成長は鈍化。ほとんど話題にされなくなり、インバウンドで獲得できるコンテンツが必要となりました。
インバウンドで獲得する最も簡単な方法は、顧客が解決法を積極的に探している時、その前に現れることであると言います。インバウンドマーケティングを実施する上で考慮すべき点は以下の通りです。
同社はさらに50名の有料顧客を獲得するのに6ヶ月間を費やしたといいます。同時に値上げを行い、有料顧客は平均60ドル/月(当初の3倍)を支払っていました。
さらに同社は、その年に4回もの価格改定を実施。価格変更するたびに多くのフィードバックを得られるため、多くの学びがあると言います。プライシングが命と言われることもあるため、価格変更はどのフェーズにおいても重要となるでしょう。
Cannyは多く機能やインテグレーションを開発。そのうちいくつはProduct Huntにてローンチしていました。
購買意欲の高いキーワードを中心に、有料広告やランディングページを作成。またブログ記事を書き、いくつかはメディアにも取り上げられました。
その結果、わずか3ヶ月でARRは5万ドルから10万ドルに倍増。その時点で顧客数は150社となっていました。
その頃、Sarah氏は以下の理由からフルタイムのマーケターを雇いたいと考えていました。
そして、マーケターを無事に採用。しかしうまくいかず、最初の採用が最初の解雇につながってしまいました。
最初の採用がうまくいかなかったことが尾を引き、4ヶ月間ほど採用に踏み切れなかったと言います。そのため、プロダクト開発と購買意欲を高めるマーケティングに投資を続けました。
2018年8月時点でCannyは200社の顧客を抱え、ARRは20万ドルになっていました。そして、それをたった2人だけで運営していました。
Sarah氏いわく、この頃から顧客サポートに専念せざるを得なくなったと言います。週に最大15時間ほどサポートに費やしており、これはリソース全体の約30%に相当していました。
加えて、そのサポート業務をうまくこなせていませんでした。開発やマーケティングに集中したいからという理由で、顧客対応を早急に終わらせることも・・・。
そこで、カスタマー・サクセス・マネジャーを採用することに。顧客サポートをやりつつ、ヘルプセンターの作成、オンボーディングプロセスの策定など、CS業務全般を任せたいと考えていました。
何百通もの応募書類を読み、何十人もの候補者と面接をした結果、素晴らしい人材に出会うことができました。これによりCannyは、サポートを疎かにせず、成長へ投資できるようになりました。
CSの採用がうまくいったため、より自信を持てるようになりました。そして、2つの役割を担う人材を採用することにしました。
これまでの成功要因は、優れたプロダクトを作ること。そしてターゲットとなる人が解決策を探している間に、その製品を届けることだと言います。
言い換えれば、プロダクトとマーケティングとなります。マーケターとエンジニアを採用することは、すでにうまくいっていることをさらに増幅させるため、理に適っていたと言えるでしょう。
そして2019年1月、最初のエンジニアが入社し、その後すぐに最初のマーケターが入社しました。
この頃、すでに多くの機能やインテグレーションを開発していたため、優先順位をつけるのが難しくなっていたと言います。プロダクトやマーケティングにおけるタスクはたくさんあり、どのタスクが最も効果的なのかは定かではありませんでした。
そこで、Cannyはプロダクト開発に集中することに。同社ツールを大企業でも使えるようにすることを2020年の大きな目標としました。まずはSMBへ販売し、プロダクトの成熟とともに高単価でエンタープライズへ販売する。これはSaaS企業にとって、ごく当たり前の流れです。
エンタープライズ営業をするために、SalesforceやMicrosoft Teams、Oktaなどとのインテグレーションを開発。プロダクトデモを改善し、SOC 2セキュリティ認証も取得しました。
とはいえ、一つの企業のための機能を構築することはありません。SaaSの根幹にあるように、ユーザーの業務プロセスをツールに合わせてもらうということを徹底していると言います。
同社はさらにエンジニアとマーケターを採用。うまくいっているものをさらに強化することにしました。この時点で採用活動はうまく機能しており、ソーシングから、スクリーニング、面接、オファーに至るまで、プロセスがしっかりと構築されていました。
そして2020年9月、プロダクトリリースから3年半の歳月を経て、ARR$1Mを突破。大きなマイルストーンを達成できました。
Cannyは見事に大きなマイルストーンを達成。さらなる成長を実現するべく、ソフトウェアエンジニアと営業部長を採用しました。また、初めてアウトバウンドセールスに取り組むことに。
同社はブートストラップを選んだことで、外部からのプレッシャーを受けず、それぞれのステージで学ぶ時間を得られたと言います。
さいごに、ARR$1Mを達成する過程でCannyが学んだことを紹介します。
あらゆるビジネスにおける、あらゆる課題を解決しようとしない。万人向けの平凡な製品ではなく、ニッチで素晴らしいプロダクトを作ることが重要。
そうすれば、プロダクトやメッセージがより明確に。あなたが作ろうとしているものに、人々はより共感してくれるようになる。足場を固めた後は、隣接する課題やターゲットとなる顧客を探しに行こう。
プロダクト担当者は、製品を作ることに90%の時間を費やしてしまいがち。良いプロダクトを作ることは重要だが、誰も使わない製品なのであれば意味がない。顧客視点を持って開発することが重要となる。
プロダクトリリースする前に何名かの有料顧客を獲得し、プロダクトやビジネスを検証する。有料課金してくれる人がいれば、他の人も支払ってくれる可能性がある。ローンチ前に検証することで、有料顧客を獲得できないリスクを排除できる。
このフェーズでは、プロダクトもマーケティングもうまくいかない時がある。成功につながる鍵は、これら課題を特定・改善し、何が効果的かを見極めること。
顧客と対話し、彼らが本当に求めてものを知ることが必要。これは、プロダクトの販売戦略にもつながる。
創業者が同じような作業に時間を割いていないか確認してみよう。それは、その役割の人材を採用するかどうかの良い指標となる。特に創業者がその分野における専門家でない場合はなおさらだ。
最初の人材は重要な役割を担うため、慎重に採用すべし。仕事をうまくこなせるかどうかはもちろん、長期的に一緒に働けるかどうかに注視することが大切。
自分の得意なこと、うまくいっていることを見極め、そこへ投資し続けること。採用をする際はどのような役割であっても、必ず何かしらの形で課題を課すことが重要。
課題の例としては、以下のようなことが考えられる。
こうすることで、候補者と一緒に仕事をすることに対し抵抗はないか確認したり、その人のスキルを把握できる。最も重要な指標は、建設的なフィードバックを得られるかどうか。
より多くのお金を稼ぐこと以上に、より具体的かつ戦略的な目標が必要となる。特にチームが大きくなるにつれ、メンバー自身が会社の目標へどのように影響を与えているか理解する必要がある。そうすることで、優先順位付けや成功の測定が簡単になる。
Cannyは資金調達せずにARR$1Mという大きなマイルストーンを達成しました。Intuitに$10Bで買収されたMailchimpもブートストラップで成長しており、外部からのプレッシャーを受けずに自分達のやり方で成功している企業は多数存在します。
そのため、今後は株式の希薄化を必要としないレベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)やベンチャーデットの活用が国内でも進んでいくと考えられます。
Yoiiでは、このRBFの考えを基にしたSaaSやD2Cなどのスタートアップ企業に成長を加速するための独自のアルゴリズムを用いた未来査定型資金調達プラットフォーム「Yoii Fuel」を運営しています。
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