
2026年02月26日
2022年11月に閣議決定された「スタートアップ育成5か年計画」は、2025年で折り返し時点を迎えました。スタートアップ育成5か年計画は
と野心的な目標を掲げており、いよいよ後半戦に突入します。
この記事では、スタートアップ経営者が次の資金調達に向けて押さえておきたい、5か年計画の全体像と後半戦のポイントを解説します。具体的には、以下の3点を中心に説明します。
5か年計画に関する動きを知り、自社の資金調達戦略に活かしていきましょう。
2022年11月、政府は「新しい資本主義」の実現に向けた重要な取り組みとして、スタートアップ育成5か年計画を閣議決定しました。この計画は、日本のスタートアップ・エコシステムを抜本的に強化し、世界で活躍できるスタートアップを創出するのが目的です。
計画は大きく3つの柱で構成されています。1つ目の柱は人材・ネットワークの構築 です。起業家教育を推進し、メンター制度などを整備することを通じて、スタートアップを担う人材の裾野を広げることがねらいです。
2つ目の柱は資金供給の強化と出口戦略の多様化 です。政府系ファンドによる投資資金の拡充が進められています。IPOだけに頼らず、M&Aなどを含めた出口の選択肢を広げる環境整備にも力が注がれています。
3つ目の柱はオープンイノベーションの推進 です。大企業とスタートアップの協業を加速させるための仕組みづくりが盛り込まれました。
こうした議論をもとにして、計49項目の施策が提案され、約1兆円規模の予算措置が講じられています。 スタートアップ経営者にとっては、自社の事業がこの3本柱のどこに該当するかを意識しておくことが、政策支援を活用する第一歩です。
5か年計画では、達成すべき3つの数値目標が掲げられています。スタートアップへの投資額を現状の約10倍に引き上げるという目標は、とても野心的です。
| 目標項目 | 計画策定時 | 今後の目標 |
|---|---|---|
| スタートアップへの投資額 | 約8,000億円 | 2027年度に10兆円 |
| ユニコーン企業数 | 6社 | 将来的に100社 |
| スタートアップ数 | 約16,100社 | 将来的に10万社 |
出所:「スタートアップ育成5か年計画」より、表は著者による作成。
注目すべきは、単にスタートアップの数を増やすだけでなく、規模の拡大にも重きを置いている点です。ユニコーンを100社創出するという目標は、急成長する企業を世界市場に送り出したいというねらいを表しています。
日本の開業率は5%前後で推移しており、欧米主要国(10%前後)と比べると約半分の水準です。廃業率も同様に低く、企業の新陳代謝が鈍いのではないかと指摘されてきました 。5か年計画は、この動きを活性化させ、イノベーション主導の経済成長を実現するための政策パッケージといえます。
2022年11月の策定から丸3年が経過し、5か年計画は2025年に折り返し時点を迎えます。
前半の3年間は、いわば「基盤固め」の期間でした。ストックオプション税制の拡充やエンジェル税制の見直しといった税制改正、各種基金の造成など、制度インフラの整備が中心に進められてきました。
後半に入る2025年以降は、整備された制度を活用して成果を出す、実行フェーズへの移行が求められます。スタートアップの育成が経済成長に不可欠であるという認識は、政権を問わず共有されており、支援の基本的な方針は変わっていません。
後半戦は計画の実効性が問われる段階です。 目標に対してどれだけ実績が出ているかを評価され、予算の配分も見直される可能性があります。スタートアップ経営者にとっては、政策がどの分野・ステージに力を入れているかを把握し、自社を有利に位置づけることが重要です。
5か年計画の後半戦では、主に以下の領域に資金が集中すると見られています。
資金が集まりそうなそれぞれの領域について、詳しく見ていきましょう。
自社の事業を5か年計画にどう位置づけるかが事業発展や資金調達の鍵です。SaaSやD2C、ECなど、さまざまな分野のスタートアップが5か年計画の施策をどう活かすかも解説します。
5か年計画の後半で資金が集中すると見られているのが、ディープテック領域です。
ディープテックとは、大学や研究機関の先端的な研究成果をもとにした技術のことです。実用化までに時間はかかるものの、社会的インパクトが大きいと考えられています。
政府はNEDO(※)を通じて1,000億円規模の基金 を設け、シード〜アーリー期のディープテックに関するスタートアップを手厚く支援しています。対象となる技術領域は幅広く、AI・量子コンピューティング・宇宙・バイオテクノロジーなど、医薬品・原子力を除く多くの分野が含まれています。
ディープテック領域で事業を展開するスタートアップにとっては、政府からの資金的支援を受けやすい環境が整いつつあるといえるでしょう。
※NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称
GX分野も、後半戦で資金が集まる重点領域のひとつです。
GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、化石燃料に依存した経済・社会構造を、クリーンエネルギー中心の構造へと転換していく取り組みのことを指します。脱炭素関連の技術を持つスタートアップに対しては、専用の支援枠が新設されています。
興味深い点として、GXリーグとの連携による需要開拓支援 という独自の仕組みが設けられています。GXリーグとは、脱炭素に取り組む企業が集まる官民連携の制度です。スタートアップと大企業とで協業する機会が生まれやすくなっています。
支援の対象は、創業前から事業を拡大する段階まで幅広くカバーされており、複数年度にわたる一貫した設計になっています。成長ステージに応じたサポートを受けられるのも特徴のひとつです。
プレシード・シード段階の支援策として注力されているのが、大学発スタートアップの創出です。
政府は5年間で5,000件以上、大学における研究成果を事業化するという目標を掲げています。 大学におけるインキュベーション施設の整備や、産学融合拠点の設置に新たな予算が投入されています。
全国8か所に設定されたスタートアップ・エコシステム拠点都市を中心に、地域ごとにスタートアップ創出を支援する仕組みの構築が進められています。 東京一極集中ではなく、地方からもスタートアップが生まれる環境を整えることで、日本全体のイノベーション力を底上げするねらいがあります。
各拠点では、事業に携わるスタートアップの募集やマッチングの場も準備されています。積極的な参加を通じて、新たな事業展開も期待できます。
5か年計画では、国内の資金供給を強化するのはもちろん、海外のVC・機関投資家から日本へ投資を呼び込む施策も重視しています。
中小機構は、海外VCファンドへの出資を通じて、日本のスタートアップと海外資本をつないでいます。主な出資実績は下にあげるとおりです。
| 出資先 | 出資規模 |
|---|---|
| Headline Japan 5号投資事業有限責任組合 | 最大20億円 |
| Global SMRJ VC Fund 2023 LP(FoFマザーファンド) | 100億円 |
| 4BIO Ventures III LP(海外VCファンド) | 最大1,100万ドル |
出所:経済産業省「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」。表は筆者により作成
グローバル展開をねらう企業は、中小機構の支援を受けているVCからサポートを受けるのが効果的です。中小機構の支援を受けるVCの投資先として選ばれることを目指します。
支援を受けやすい企業は基本的に、ステージと業種(領域)の相性で決まります。たとえば海外展開に強い関心のある企業は、Headline Asiaの支援を受けることを考えてみましょう。 海外進出のための戦略を相談したり、海外投資家・事業パートナー候補を紹介したりする、などの取り組みが紹介されています。
ライフサイエンスなど事業領域が明確なら、たとえば4BIO Partnersのように、支援対象がはっきりしているVCを検討してみましょう。4BIO Partnersは、先進的な治療薬の開発や技術開発を支援しており、シード〜アーリー期の企業が主な対象と考えられます。 関連するイベントやコミュニティを通じて、接点を増やしていくのが現実的です。
5か年計画の重点領域は、ディープテックやGXなど特定の分野にかたよっているように見えます。SaaSやD2C、ECなどの事業を主軸にするスタートアップは、支援策を使いづらく感じるかもしれません。
しかし、支援領域に自社の業種が入っていなくても、政策を活用できる余地は十分にあります。重要な点は、自社が提供できる価値を、事業推進を支える機能としてわかりやすく伝えることです。
たとえばSaaSであれば、ディープテック・GX関連企業が直面しやすい課題を効率的に解決できないかを考えてみます。 研究開発や製造、品質管理、調達、物流、会計や人事、情報開示など、課題を抱える業務は多いはずです。
データ整備や意思決定を支援する製品も、イノベーションを支える存在として評価されるでしょう。たとえば、排出量やエネルギー使用量などのデータを収集し可視化する仕組みがあれば、GX分野の実務を支援できます。
D2CやECでも、AIやデジタル技術を活用 しながら、
といった取り組みを進めていれば、生産性向上やサプライチェーン最適化といった形で、政策を活用しやすくなります。
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「成長資金を調達したいスタートアップが知っておくべき補助金を紹介!」
スタートアップ育成5か年計画の進み具合を振り返りつつ、以下のポイントを中心に、今後「資金がどこへ流れるか」を考えてみましょう。
5か年計画の折り返し地点で、主要な数値はまずまずといえそうです。
まず、スタートアップの数は2021年の約16,100社から2023年には約21,000社へと増加しています。ユニコーン企業数も、2021年までの6社から2023年には8社に増えました。目標の10万社・100社にはまだ大きな開きがあるものの、ゴールに向けて少しずつ増え続けています (経済産業省、2025)。
日本の動きで注目したいのは、国際的な動きと比べると、日本においてはスタートアップ投資の減少が鈍くなっている点です。 2021〜23年にかけてのスタートアップ投資額を見ると、新型コロナの影響などもあり、米国や中国では逆風が吹きました。こうした中で、日本における投資の減少を抑えられたのは、5か年計画による下支えの効果もあったといえそうです。
| 国 | 投資額の変動(2021〜23年) |
|---|---|
| 米国 | -59% |
| 中国 | -35% |
| 日本 | -8% |
出所:経済産業省「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」
2024〜25年度の予算では、5か年計画の中でも、ディープテックを中心にした資金供給の強化や、グローバル展開・人材育成に重点が置かれています。
資金面では、研究開発型のスタートアップを中心に、事業開発を後押しする枠が拡充されています。GX領域では300億円という大きな予算が確保 され、脱炭素関連の技術などを事業化するスタートアップにとって追い風です。加えて、ディープテック支援も補正予算で76億円が手当てされる など、研究成果を社会実装につなげる動きが強化されました。
地域からスタートアップを生み出す基盤づくりも進んでいます。地方大学から研究成果を起点に起業を増やすため、インキュベーションや産学融合の拠点整備を通じた支援が拡充されています。
グローバル展開を強化する取り組みとして、2025年の大阪・関西万博に合わせてGlobal Startup Expoが開催されました。海外の投資家・スタートアップと交流する機会を増やし、日本のスタートアップ・エコシステムの存在感を国際的に高めるねらいがあります。
人材育成の領域では、IPA(情報処理推進機構)が運営する、未踏事業の考え方を広げる動きが注目されています。未踏は、突出した若手IT人材を発掘・育成するプログラムです。この未踏モデルを、地方や産総研(産業技術総合研究所)にも横展開し、挑戦する若手人材の裾野を広げる方向が打ち出されています。
JICは、スタートアップ支援に特化したファンドの設立を通じて、民間のVCだけではカバーしきれない領域へ資金を供給しています。中小機構は、国内外のVCファンドへ出資し、VCからの投資を間接的にサポートしているのです。
こうした政府系機関からの資金が流入すると、民間VCの投資行動にも影響を与えます。政府系ファンドが出資しているVCは、資金的な安定性が高く、投資先に対してより手厚いハンズオン支援を行える傾向にあります。
スタートアップにとっては、政府系の支援を受けているVCをリストアップし、自社の資金調達先として検討してみるのがひとつの戦略です。 どのステージ・業種の企業が支援を受けやすいかは、それぞれのVCにおける投資方針によって異なるため、情報収集が欠かせません。
中小機構のウェブサイトでは出資先ファンドの一覧が公開されています。まずは自社の事業領域に近いVCを探してみるとよいでしょう。
意外と見落とされがちですが、公共調達市場 もスタートアップにとって大きな成長の機会となり得ます。公共調達とは、政府や自治体が行う物品・サービスの購入のことです。
5か年計画では公共調達におけるスタートアップの契約比率を、現状の0.8%から3%へと引き上げる目標です。公共調達の市場は年間およそ25兆円の規模があります。 契約比率が高まれば、スタートアップにとって無視できない大きさの市場が開かれることになります。
この目標の実現に向けて、J-Startup認定企業との随意契約を可能にするなど、ルールの見直しが進められています。 従来の公共調達では、入札手続きの煩雑さや過去の実績を求める要件が、スタートアップにとって大きな参入障壁でした。要件を緩和することで、革新的な技術やサービスを持つスタートアップが、公共調達に参入しやすくなると期待されているのです。
5か年計画の期限は2027年です。「計画が終了したら政府の支援も打ち切られるのでは」と不安に感じる方がいるかもしれません。しかし5か年計画はあくまで、道筋をつける期間という位置づけです。
スタートアップの創出と成長は、今後も日本の経済成長に欠かせません。計画終了後も、何らかの形で支援策が続くと見るのが自然です。
日本でもスタートアップの成功事例が増えてくれば、社会の認識を変えていく力になります。「スタートアップが日本経済を牽引している」という実感が広まれば、支援策はさらに拡充されるでしょう。
一方で経営者としては、補助金などの支援に依存しないよう、事業モデルの構築・見直しを進めておくことも重要です。 政策はあくまで一時の追い風であり、事業そのものが持つ成長力が、長い目で見た際の発展の土台になります。政策を賢く活用しながら、自社の競争力を高めていくバランス感覚が求められています。
スタートアップ育成5か年計画は、2025年に折り返し地点を迎えました。制度や基盤を整備する時期から、実績を出すフェーズへと移行が進んでいます。
5か年計画の後半戦におけるポイントは、以下のとおりです。
日本におけるスタートアップ数やユニコーン企業数は少しずつ増加しています。世界的に投資が減速する中でも、日本市場は相対的に規模をたもっています。
SaaSやD2C、ECなどさまざまな分野のスタートアップ企業にとって、政策の方向性と自社事業の接点を見つけ出すことが、これからの資金調達戦略におけるポイントです。
5か年計画の終了後も支援は何らかの形で継続されると考えられます。 一方で、支援への依存は避け、事業の成長力を高めていくことが、持続的な発展にとって重要です。政策をうまく活用しながら、次の資金調達に向けた準備を進めていきましょう。
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